橋爪大三郎『正しい本の読み方』(講談社現代新書,2017,248p)
去る4月26日(木)の朝日新聞夕刊の「リスキリング(学び直し)への心構えは」という記事で社会学者の橋爪大三郎氏が話しています。その中で「人が学ぶのは『人生のリセット』に備えるためだ」と表題の著書『正しい本の読み方』で触れたと紹介されていました。本書は私も読んでいたので,はてどんな記述だったろうと読み返してみたのです。「はじめに」の8ページにありました。引用します。
…世の中は、とても変化が激しいのです。会計ソフトが出てきて、誰もが使えるようになると、簿記の仕事はなくなってしまうかもしれない。そういう具合で、ひと昔前、ふた昔前にあった多くの職業が、消えています。そして、新しい職業がたくさん出てきます。人生のリセットを途中でやらなければいけないひとが、多くなる。
人生のリセットは、どうやるか。今までとはまるで違った専門の本を、いちから読んで勉強し、仕事で使えるようにならなきゃいけない。(引用ここまで)
それで,まるで違う分野の本を読みこなすために,いわゆる教養を身につけておく必要がある。そのために本を読んで勉強しなくてはいけないし,本の読み方というものがある。それを指南しましょう,という本です。
5年ぶりくらいに読み返したわけですが,再読だから速く読めてしまうし,あちこち線をひいたりドッグイヤー(ページの角を折った目印)をしたりしているので前に気になったところがわかるし,新たに気づくこともあったりします。これは「再読」の効用なので,それはさておき,ぜひ一読をお薦めしたい。私からのお薦めポイントを書きましょう。
○本を読むことは著者との対話である。著者に賛成のことも反対のこともあるけれど,読んでいる間は素直に読む。すると,いろんな人のいろんな意見を知ることができて,人間的能力が高まる。読むときはアクションを交えると注意力を維持できる。すなわち,マーカーを使ったり,傍線などの印をつけながら読む。一日一ページでもよい。本当に大事な本は速読などできない。
○本の内容を覚えるのではなく,その本にだいたい何が書いてあるかを覚える。必要があれば読み返せば良いし,再読は速く読める。大事な本は頑張って買って手許に置いておく。
○学校を卒業し,教科書を卒業したら,古典(クラシックス)を読む。原書を読むのが大変であれば入門書を読む。本にはネットワークがあるので,その構造を知れば読むべき本をうまく選ぶことができる。特に筆者が「大著者」と呼んでいる,マルクスやレヴィ=ストロースのような,時代を突き進み,突き抜けるような人の著作に当たるのが良い。<特別付録>として「必ず読むべき『大著者100人』リスト」というのがあります。
(私の場合,人生の残りでこれら総てを読むことは無理だと思う(『徒然草』とか,既に読んだ本もある)ので,気になるものから読めるだけ読むという作戦で行きたい。ひとまずカント『純粋理性批判』が岩波文庫の古本で安く買えたので,これに挑戦しようと思います)
○本は何の役にたつのか。文学は人間についてのリテラシーが高まる。こういう人,いるよね,という理解力がつく。数学と自然科学は無条件に正しいので,世界じゅうの人々が恩恵を受けられる。哲学は,未知の課題に直面したとき最後に頼る拠り所になる。教養は,一人ひとりの個人が自分の人生の主人公として生きていくのを支援する。
○勉強法について。考えて解くべき問題を記憶で解くのは有害。何かを覚えるのだったら,定期試験のためではなく,将来の入学試験のために覚える。社会に出てからも一生覚えているつもりで覚える(これ,私は常々生徒に言っています。ウケているかどうかはさておき)。