試験時間50分,各教科100点満点となって2回目の高校入試。昨年は理科が易しく社会が難しかったのだが,今年は理科がやや難化して社会は易化した。理科と社会でバランスを取るため難度の調整でもしているかのように感じられてならないのだが,もしもそうだとするとそれは入試の在り方としておかしい。私が指摘するまでもなく,ある教科が易しいとその教科の得意な生徒が不利になるのだから。どの教科もそれぞれに難しいのが入試として望ましいはずである。また,ある教科が年ごとに難化したり易化したりするのも受験生の学力の目標を見失わせる。道教委はもう少し受験生の身になって入試の設計をすべきである。
■国語
昨年は文学的文章(小説など)だった大問[二]が,今年は説明的文章(論説文など)。結果,昨年は説明的文章の大問がなく今年は文学的文章の大問がない。文学的文章であっても読解は論理的でなくてはならないし(少なくとも設問の対象になっているところは),説明的文章であっても(今年の出題のように)筆者や読者の心情が関わってくることはあるが,2年前までのように大問として両方出ているほうがバランスは良いのに違いない。また仮に両者が交互に出される流れにでもなれば,来年の大問[二]は文学的文章だから公立高対策としては「説明的文章はやらなくていい」などという感心しない事態を招きそうである。
このアンバランスは実用文の問題が大問で存在するために起こっている。実用文重視の傾向は大学入試“改革”の影響を受けていると思われ,全国的なものであろうし,意図はわからなくもない。ただ,それは小説や論説文を切ってまでやることなのか,また日本語の運用能力を測るということなら小説や論説文に絡めても可能ではないのだろうか,との疑問も湧く。以前のように実用文は小問集合と合体させて大問[一]とし,以下,[二]文学的文章,[三]論理的文章,[四]古典--のようにすべきではないか。
[一] 小問集合。問五を含めて平易。
[二] 説明的文章。素材は藤田正勝『哲学のヒント』(岩波新書,2013)から。身近にある物体(「もの」)には記憶や感情(「こと」)が結びついており,その対象への思索において両者を切り離したり一方を排除したりすることはできない,という論旨の,中高生にも馴染み易いであろう哲学への誘いである。後者を第2段落で(カッコ付きで)「こと」と呼び,さらに第5段落で「『こと』の世界」などという表現も出てくるのが読みづらいか(このような難しさへの対応力は読書によって培われる)。ただし,問三を解くことで「こと」が「もの」と対になっていることに思い至れば理解が進むであろう。問五は傍線部と同じことを表している部分を別の文章中に指摘するもので,新傾向ではあるが,字数指定がヒントになっていて難しくはない。また問六は自由作文的でこれも新傾向。筆者が話題にしている万年筆を自分なりに愛着のある何かに置き換えれば書けそう。
[三] 古典。入試古文でお馴染みの本居宣長『玉勝間』より。昨年の古典は素材も設問も高難度だったが今年は平易。問二から解くと良いかも知れない。問一の「たぐふ」は漢字を充てれば「類ふ・比ふ」である。これがわかれば「たぐふべき物もなく」の意味も容易。
[四] 観光PRに方言を活用している自治体の例から,方言のもつ力について考察する。問二は注目すべきことが二点あるが両方書く必要はない。問三は明らかに不十分な「下書き」を「話し合い」の結論に従って直せばよい。レポートのテーマ「方言のもつ力」がヒントである。
■数学
昨年に続き「予想と説明」が出題された(大問[2])。昨年の2題はいずれも,すっきりした普通の問題にできたはずのものを「予想→説明」という形式に無理矢理はめこんだような不自然なものであったが,今年は少し良くなったようである。失敗があれば反省し改善するのは結構なことであるが,それにしても昨年のは出題してしまう前に何とかすべきであった。受験生は実験動物ではないのである。
全体としては昨年に続き難問はなし。一時の裁量問題のような正答率の低い設問が1,2題あるのが望ましい。
[1] 小問集合。配点が昨年の27点から33点に増加。
[2] 式と証明。掛け算九九の表を用いて,縦横に隣り合う4数の和の性質について予想を立て説明する。予想Ⅰは誤りであることを,予想Ⅱは正しいことを説明する。いずれも結論は示されているので,予想Ⅰは反例をひとつ挙げればよく(いくらでもある),予想Ⅱは誘導に従うだけ--であるが,予想Ⅱはほとんど当たり前のことであり,力のある生徒はかえって戸惑ったかも知れない。来年以降もこの形式での出題を続けるなら,作問者はもっと腰を据えてかかるべきである。
[3] 2乗比例関数。問2はほとんど暗算で答が出るものだが記述式なのが煩わしい。問3はよくある座標平面上の図形に関するもので,誘導もあって平易。
[4] 平面図形。問2の(1)で三角形の相似を,(2)で三角形の合同を示す。(1)は易しい上に穴埋め形式。(2)は(1)の結果(2つ)を用いてもよいが,用いないのが最も容易。ここはむしろ(1)を完全記述式にし,(2)は3通りの証明を穴埋めでさせるのでも良かったであろう。
[5] データの活用。「昔は今ほど夏が暑くなかった」という感覚的な話をデータで裏付ける。今年の中では良く考えられた出題だと思う。平易だが解いていると「なるほどねー」と感心させられる。
■英語
昨年と同じく読解問題は大問[3]の[B]と[C]のみであり,一昨年までの裁量問題の[A]に比べると負担は小さい。リスニングや自由作文のウェイトが大きく,歯応えのある英文にじっくり取り組むという要素に不足があるであろう。一見“実用”重視に見えるが,中学英語レベルで“実用”に長けていることは成長後の英語運用能力におそらく大した意味を持たない。中~高難度の英文を前にじっくり思考する大問が欲しい。また3年後の大学入試では,たとえば共通テストで(その是非は置くとして)膨大な量を猛スピードで読まねばならないことを考えると,高校入試でのこの軽さが心配になる。リスニングや自由作文の量を減らして1ページを超える長文を課すという方向にできないか。
自由作文については採点基準の表現が変わった。昨年までは「文法的に間違いはあるが,内容的に理解できるものは,それぞれ●点(中間点)とする」であったが,今年は「英語使用の正確さに不十分な点はあるが,表現内容が適切である場合は,●点(中間点)とする」となった。昨年までの「文法的」とか「内容的」という文言が曖昧であったのを改めたということであろうか。確かに「英語使用の正確さ」には「文法的」なことのほか単語の選択とか綴りのこともあろうし,「表現内容が適切」とはたとえば文法的にはアリだが「状況としては変」だとか「非常識」「相手に失礼」など不適切なこともあろうから。でもまあ,(毎年書いているのだが)大雑把で大甘な基準であることに違いはなさそう。実際は各高校で個々に採点基準が存在するのに違いないし,そう願いたい。
[1] リスニング。小問数は昨年より1増えたが配点35点は昨年と同じ。当面このボリュームでいくか。
[2] 穴埋め形式と自由作文の基礎的な問題。
[3] 昨年と同じく,[A]は表を見て答えるもの。昨年の旅程表は複雑だったが今年はシンプル。[B]は半ページほどの文章。問2は文章中の “When in Rome, do as the Romans do.” という諺の意味を選択する。平易だが,英語の諺は多くの中学生には馴染みがなさそうであり,そもそも日本語での「郷に入っては郷に従え」を知らない生徒もいそうで,面白い試みである。問3の英作文は文頭にBecauseが要るのではないかと気になる(中学生はそう習っているはずである)。[C]は会話。ディベートの準備として教師の問いに生徒二人が意見を述べている。高齢者にとって都市と地方ではどちらが住みよいかというテーマについて長所短所を考えるもの。長くはないが内容には深みがあってよい。
[4] 自由作文。高校生のスマートフォンの利用について資料を見ながら考える。(3)は大学入試でも頻出であろう,利用上の注意に関すること。模試などで経験していると良い答が書けそうである。
■理科
小問数は昨年と同じ32だが,激易だった昨年に比べるとやや難化して「標準」に近づいた。解いてみた手応えは試験時間が45分だった1昨年までと変わりない。小問数を増やすか,もっと骨のある問題を増やすべきであろう。
[1] 小問集合。問4は小問集合にしては骨が折れる。種子の形質は表の3段目から丸が顕性,しわが潜性とわかるので,それぞれを表す遺伝子をR,rなどとおいて 4段目・5段目 → 1段目・2段目 の順に各種子の遺伝子型(対立遺伝子の組み合わせのこと)を推理していく。問5は太陽の南中高度の公式を記憶しておくべきであろう。
[2] 生物。ヒトの呼吸系と循環系。11年に類題が出ている。問3は「体積×割合×回数の平均値」を計算すればよいことがわかれば易しい。
[3] 化学。前半は銅およびマグネシウムの酸化。後半は炭素による酸化鉄の還元とマグネシウムによる二酸化炭素の還元から鉄・マグネシウム・炭素の酸素との結びつきやすさを調べるもの。後半を扱う問2は「仮説」を立てているが,これがおかしい。空欄を埋めて書けば「ある単体が酸化物から酸素をうばえば,その単体をつくっている元素は酸化物に含まれている元素より酸素と結びつきやすいといえるのではないか」となるのだが,これは「仮説」などではなく「説明」あるいは「同義反復」であろう。たとえば炭素と鉄では炭素のほうが鉄よりも酸素と結びつきやすいので炭素はが酸化鉄から酸素をうばう,というだけのことである。
話は変わって実験2の[1]だが,赤鉄鉱 Fe2O3 と思われる「赤茶色の酸化鉄」は試験管とガスバーナーで還元できるのであろうか。鉄鉱石の精錬と同じことをするのだから,実験室レベルでは電気炉で数時間かけて行うようなことをするはずである。試験管とガスバーナーでは温度不足で鉄にまで還元はされないとの報告(↓)もある。
(https://apec.aichi-c.ed.jp/kyouka/rika/kagaku/2018/riron/reduction/reduction.html)
この実験は普通に酸化銅でやればいいのであり,酸素との結びつきやすさの順位はマグネシウム>炭素>銅となる。この組み合わせならば希少だが岡山19[5]など出題例がある。
[4] 地学。月と金星の運動。問1(1)で問われるのだが,天体望遠鏡での見え方,したがって表のスケッチは実際の見え方とは逆になっていることに注意しなくてはならない。問1(2)は正答要件が2点あるようだが,スケッチのように大きく満ち欠けしているのが内惑星である証拠なので,答は「形が大きく変化しているから」で十分である。問2(1)は,月は自身の公転のため他の天体よりも見かけの動きがやや遅くなることを扱っている。この件は17年の日食の問題(天体の出題としては2回前)でも扱われているので,過去問をしっかり解いていた生徒は思い当たったであろう。
[5] 物理。凸レンズの性質。一般に,物体~凸レンズの距離をa,と凸レンズ~スクリーンの距離をbとすると,aとbの間には 1/a+1/b=1/f (fは焦点距離)という関係が成り立つ(高校物理)。この関係を,f=10として描いたのが図2のグラフである。この関係の出題例は公立高校では私の知るかぎり滋賀14[2],富山19[3]の2題で,前者はなかなかの難問。また問4は,凸レンズのふくらみが小さい(曲率半径が大きい)ほど焦点距離が大きくなることが実験3からわかるので,あとは虚像の作図をして考えれば良い。
なお,中3配当の「運動とエネルギー」はこれで4年続けて出題がなし。来年こそは出るだろうと予想するが,どうであろうか。
■社会
昨年に比べ易化した。記述式の問も,昨年の大問[4]問3のような資料が示されていないにも拘わらずその内容をふまえなくてはならないという容赦ないものはなく,解答要件はすべて資料に示されている。というより,大学入試であってもそれが普通である。今後もこのように願いたい。
[1] 小問集合。地理・歴史・公民の小問が各5題。問5「吉田茂」は16年にも出ている。問6「マイクロクレジット」は指定語句があるので書きやすいが小問としてはやや難か。
[2] 歴史。古代から現代までの,海外との関係。問3「間宮林蔵」はやや難であろうが,資料2が樺太(サハリン)とロシア本土との間の「間宮海峡」の発見のことを述べているので,これと関連づけて記憶していれば易しい。問5「1920年代におけるわが国の軍事費の特徴」の記述の要件2点のうち「軍事費が抑えられている」はグラフから容易に読み取れるが,表の国際連盟やワシントン会議から「国際協調」やこれに類する語を捻り出すのは,書いた経験がなければ難しいであろう。
[3] [A]世界地理,[B]日本地理。[A]問2の人口ピラミッドの選択は資料の「多くの労働者が流入」から20代~50代で男性がいびつに多い(40代が突出)イが正解とわかる。労働者というのは建設関連なのでほとんど男性なのである。[B]は問1と問3がトンネル絡み。問3はトンネルの写真があるので,香川県内の灌漑のために讃岐山脈を横断するトンネルを掘って吉野川の水を引いたことは容易にわかる。
ところで,[A]問2のC国は22年にサッカーW杯が行われたカタール(首都はドーハ)である。国名がわからなくても正解できるが,サッカーのテレビ中継を見ながらカタールの位置を(心当たりがなければ)確かめるという姿勢がほしいものである。また,建設現場の過酷な労働環境で多数の死者が出ていることも承知しておくとよいだろう。
[4] 公民。政治分野・経済分野から広く基礎知識を問うもの。問6(1)は所得再分配の前後での所得格差の変化をグラフをもとに記述する。設問にある「1990年と2017年を比較して」という指示に従ってまとめる。(2)の「国の負債は将来世代の負担」は頻出。
なお,[1]と[4]のいずれにも国際政治や環境問題の出題はなかった。