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『絵でわかる地震の科学』

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井出哲(いで・さとし)『絵でわかる地震の科学』(講談社,2017)

著者は東京大学大学院理学研究科地球惑星科学専攻教授。平たく言えば東大の地震学の先生。研究テーマは①地震発生のメカニズム,②「ゆっくり地震」,③世界の地震の多様性など。

最近の地震学の成果(最先端でなくてもいい)をまとめた教科書はないものかとここ数年探していました。あれば独習するつもりでしたが,結局“定番”の教科書にはそういうものは見当たらず,本当に必要なら地震学会に入って雑誌を購読するよりない(購読できても読みこなせる自信はない)だろうと半ば諦めていたところでした。

そんな折り,大通ジュンク堂地下の理工書売場,地球科学のコーナーを通りがかったときにふと目について本書を手に取り,これが欲しかった本だと直感したのです。久しぶりに「本に呼ばれる」経験をしました。最近理工書もアマゾンで買うことが増えましたが,やはり書店に行かなくてはいけないなと痛感した次第です。

さて本書は索引を含めてわずか183ページという手軽さにも拘わらず,小中学校の理科で学ぶような地震の基礎から大学院生がやるような最先端の研究まで守備範囲は広い。しかも知識のカタログのように網羅するのでなく,読者が脱落しないようにと丁寧な解説を尽くそうとしています。

私は大学で地震学を少し囓った者ですが,わかっていたつもりでも改めて理解が深まったことが本書の前半では多い。たとえばマグニチュードの計算式が何種類もあることについて,その多様さと曖昧さの理由について漸く腑に落ちた気がしています。「モーメントマグニチュード」の計算には「地震モーメント」を用いますが,この直感的な理解のしかたを「モーメント」まで遡って説明しています(普通の地震学の教科書ではそんなことはしません)。

また,後半では最近見かけるようになった「アスペリティ」「ゆっくり地震」など,定番の教科書でも読むことが叶わない話題も丁寧に解説されていてとても有り難い。前半に比べて内容が多少ハードになりスイスイ読み進めることはできないものの,地震学の熱い話題に触れることができます。本来は研究者向けの論文に掲載されていたはずの図もカラーで見やすくアレンジされています。

本書の構成は次の通り。< >内はキーワードの例。

第1章 地震はどこまでわかっているのか? <断層,プレート,地震モーメント>
第2章 地震とは何か? <地震動,破壊すべり,マグニチュード,地震モーメント>
第3章 地震を“視る”技術 <実体波と表面波,断層の向きと押し・引き>
第4章 地震の原動力 <日本周辺のプレート,沈み込み,アウターライズ>
第5章 震源では何が起きているのか? <断層破壊,破壊すべり,RSF則,アスペリティ,プレスリップ,アフタースリップ,シュードタキライト,フラクタル構造>
第6章 地震の大きさと速さ  <スケール法則,GR則,静かな地震,スロースリップ,ゆっくり地震,深部微動>
第7章 地震活動と複雑系  <前震・本震・余震,大森・宇津法則,群発地震,誘発地震,砂山モデル,セルオートマトン>
第8章 地震と震災  <強震動,方位依存性,地表地震断層,津波>
第9章 将来の地震についてわかること  <地震予知幻想,繰り返し地震,固有性と階層性,確率的地震予測,プレスリップ>

著者の井出氏は本書が最初の著作のようです。自身の研究や学生の指導で多忙な中,良い本をまとめてくれたと感謝せずにいられません。いつか本書をベースにした本格的な教科書を(できれば日本語で)世に出してほしいと願っています。

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