本の紹介です。辻芳樹編、岩波ジュニア新書です。
まずは裏表紙の紹介文を。
話題のレストランのシェフや気鋭の料理人、人気パティシエ、ソムリエなど、いま注目を集める料理の仕事人たちが自らの仕事の魅力を語ります。料理の道を志したきっかけや厳しい修業のエピソード、夢を実現するまでの道のり、料理へのこだわりなど、それぞれの個性あふれる仕事ぶりをたっぷりと紹介します。
いい高校→いい大学→いい勤め先、という構図が崩れ去っている今、料理の世界に興味をもつ中高生もいるのではないかと思い、塾の書棚に置くために購入、自分でも一読しました。編者は有名な辻調理専門学校の校長。メッセージを寄せているのは、ここの卒業生を中心に16名。職種・肩書を列記してみますと、
・フランス料理店オーナーシェフ
・イタリア料理店オーナーシェフ
・イタリア料理店オーナー
・料亭の主人
・懐石旅館の主人
・焼鳥店の店主
・串カツ店の店主
・シェフソムリエ
・オーナーシェフ
・オーナーパティシエ(菓子職人)
・オーナーブランジェ(パン職人)
・パリスタ(コーヒー職人)/カフェ店主
・料理教室主宰/料理研究家
・料理研究家/フードコーディネーター/スタイリスト
・レストラン=ディレクター
・オーストリア国家公認キュッヘンマイスター(料理の匠)
高校から専門学校へという経歴の人が多いですが、大学を卒業してから専門学校へという人もいます。和食の修業の場としては、その名だけは私も聞いたことがある京都の「吉兆」がしばしば登場。フレンチやイタリアンではヨーロッパへの留学や武者修行をする人も多い中で、オーストラリアで独学ではじめて世界最高峰に上り詰めている人もいて、驚かされます。焼鳥店と串カツ店の人は、フレンチからの転身です。
登場する人たちは、みなさん、実によく勉強し、努力しています。圧巻は、オーストリア国家公認キュッヘンマイスターにアジア人で初めてなった人。その資格試験は超難関で、読んでみるとわかりますが試験の準備にそれは過酷な努力を要求されます。ドイツ語はもちろん、英語とフランス語も必要。技術・知識・言語のすべてに秀でていなくてはならず、日本の司法試験などよりも難しいに違いありません。
そんなわけで、一読すると、「料理の世界で一人前になるためには常人には不可能な努力を強いられるのだ」というような印象を受けてしまいます。高校生を読者として想定して書かれていますが、高校生たちに「こりゃだめだ」と思わせてしまいかねません。
まあ、この本に登場するような華々しい人たちだけで料理の世界が成り立っているわけでもありません。目立たず、地道に技術を磨いてその店を支えている人が大多数なのです。
それに、どんな職業でも、一人前になるまでには命を削るような思いをしながらくぐりぬける時期が必ずあるものだと思います。私は地質調査業と塾屋しかわかりませんが、20代・30代という年齢にはやはりそういう時期があった気がします。だから、料理の世界にももちろんそれはあり、現場を知らないのでやたらと大変なような印象を受けてしまうのでしょう。その道で生きていこうという覚悟さえあれば、切り抜けていけるのかなと思います。
あとは、どなたかが書いていましたが、良い師匠を見つけること。だめな人物の下で苦労しても身にならないのですね。それはどんな世界にいても言えることだと思います。
『料理の仕事がしたい』