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2020年度北海道公立高校入試について

(2020年3月10日発行の『神谷塾だより』に掲載したものです)
新型コロナウィルス肺炎の流行により入試の直前に休校、前日の下見もなしという前代未聞の事態となった。おかげで落ち着いて勉強できたという生徒もいれば、生活のリズムが狂って試験でも調子が狂ったという生徒もいたに違いない。実はこういう不測の事態に対しどのように行動すべきかを冷静かつ合理的に判断できる力こそ、長い人生において必要とされるものである。それが入試でも問われたとすれば受験生にとって余計なおまけであり災難ではあったが、わずかでも何か得るものがあればと願わずにいられない。
さて入試問題のことである。標準問題・裁量問題とも全体に難化した。昨年は数学を筆頭に易かったので普通の入試であれば難化する理屈だが、それを差し引いても理科は難しかったようである。
社会では18年にあり得ない出題ミスがあり、責任を負う者たちが誰ひとりまともなチェックをしていないことが露呈した。二度とこんなことがないように気を引き締めるのが普通だが、わずか2年で、しかも同じ教科でまた出題ミスがある。もっと真面目にやれと言いたいですね。今回のは最終問であったし件の数値が小さすぎたために混乱したという生徒はあまりいなかっただろうから、受験生をパニックに陥れたであろう18年のミスとは次元が異なる。だがミスはミス。受験生に迷惑をかけることに変わりはない。
以下、教科別にコメントする。問題番号は、国・数・英では裁量問題のもの。標準問題については割愛した。
【国語】
文法の問題が裁量問題にはなく標準[一]にちらっと出ているだけ。しかも学習は不要な出題。これでは文法を勉強しなくて良いと言われているようだ。高校で学ぶ文語文法の基礎なのに。
[一] 漢字・実用文。実用文はここ数年、複数の資料から必要部分を拾って膨大に書く方式の、論述ならぬ“情報処理”のようになっていたが、形式が改められてコンパクトになった。
[二] 文学的文章。素材は日野祐希の小説。問三の書き抜きは正答の二つ前の文「ヘラから…」と迷う。
[三] 裁量問題。説明的文章。抽象画についての齋藤亜矢の論考。抽象画についての予備知識またはカンディンスキーや熊谷守一の絵を見た経験がないと読み辛い。問四は「意味処理」=「『なにか』として『見る』こと」と捉えられれば傍線部前の二段落をまとめればい良いとわかる。問五は難。アとウを除外し、イとエが逆を言っていることがわかれば正答に辿り着ける。
[四] 古典。『万葉集』から額田王の長歌。慣れない素材に戸惑って内容をつかみ切れなかった生徒も多そう。問三が読解のヒントになっている。前半が春山の花、後半が秋山の木の葉のことを言っていて、二句ずつが対句になっているとわかれば読めてくる。
【数学】
激易だった昨年よりは改善された。これといった難問はなし。
[1] 小問集合。道旗の問題が目を引くが、みな基本的。
[2] 整数。曜日の規則を扱うもの。問2がやや難。閏年である2020年と1年間のすべての曜日が一致するというのだから閏年限定である。元日の曜日が閏年から次の閏年までの4年で5日ズレるので、28年で35日(7の倍数)ズレて初めて一致する。
[3] 2次関数。易しい。問3は正答例では2次方程式を解いているが、t>0 なので ÷t が許され、傾きを計算で求められる。
[4] 平面図形。問2は「円周角の定理の逆」を使う(正答例)形をしているのだが、思いつかなければまず△ABE∽△CBDを示し、AB:CB=BE:BDを根拠にしても良い。
[5] 裁量問題。問1(速さ)は易しい。問2(資料の整理)は(2)で時間がかかる。問3(三平方の定理)が解きやすいので、問2(2)に 着手する前にこちらを解くべきだったかも。
【英語】
大問構成は例年どおり。小問単位で細かい変化が随所に。
[1] リスニング。形式・分量・配点とも例年どおり。内容は難化。
[2] 短文・実用文。3行目の形容詞 scared (動詞 scare の過去分詞)は『サンシャイン』では未習。なお『ニューホライズン』では中2で scared を学び、『ワンワールド』では中2で scare を学ぶ。
[3] 会話文。セラピードッグの話題。犬好きには楽しい。
[4] 裁量問題。[A]の長文は同一の出来事を2人の視点で書いたもの。新傾向と言えそうだが、同じ内容を二度読むようなことになるので裁量問題としては易しくなってしまった。問2の wore がやや難しいくらい。[B]の英作文はほぼ決まった内容を不足なく英文にするもの。ここ数年の出題意義の疑わしい形式からより実用性の高い、作文能力も測りやすいものになり、語数も増えた。
【理科】
各大問とも丁寧に思考しなくては解けない設問が含まれ 大問単位で易→難の順に並んだ、なかなか良いセットである。中間点のつく問題が増えた印象。
[1] 小問集合。問2・問3は関連のある2つの語句を両方書かせるもの(完全解答)。これまでありそうで見かけなかった形式。
[2] 化学。物質の密度。水とエタノールではエタノールのほうが密度が小さい。これは実験2の[3][4]からわかるが、常識として知っていたほうが仕事は速い。
[3] 地学。太陽表面の観察と惑星の公転。問2(3)は公転の角度を計算したあと(2)の正答の図(ア)を利用する。
[4] 物理。電流と磁界。実験2は小5で習うコイルモーター。中学理科ではあまり見ない素材だが設問には誘導もあり解きやすい。
[5] 生物。植物の細胞分裂と成長。タマネギの根の先端付近がよく伸びるというお馴染みの素材だが、細胞の成長の定量的扱いはそうでもない。実験の方法を完全に把握しないと図2・図4・図5の意味が理解できず四苦八苦する。問2(2)は難問であろう。
【社会】
配点は地理21点、歴史20点、公民19点とほぼ均等。
[1] 小問集合。問1の昭和基地中心の正距方位図法は面白い。
[2] 歴史。問5(2)は幕末にせっかく開国したのにアメリカが来なくなる件。有名な話だが歴史の横の糸を意識するには良い問題。
[3] 公民。問4「法の支配」は最近見かけるようになった素材。鹿児島19に類題が出ていたのを冬期講習で取り上げた。
[4] [A]世界地理と[B]日本地理。[B]問4はミスさえなければ悪くない。グラフ3・4はⅠの人口と産業構造から3が北海道で4が千葉県と見当がつく。穴埋めは文脈から「生産年齢人口の減少」か。


(2020年3月16日追記)
理科について,迂闊にも「なかなか良いセット」などと褒めてしまいましたが,大問[3](天体の問題)にいただけない“ミスもどき”がありました。問2の図3と,同問(2)の選択肢ア(正解)の図が両立しないのです。
北海道2020[3]-2030
図3は太陽(灰色のマル)・金星(●)・地球(○)の位置関係を示したものです。惑星の公転軌道(円に近い楕円)を円とみなし,楕円の長半径を円の半径とみなすことにすると,金星の軌道半径と地球の軌道半径の比はおよそ0.72:1です。入試問題をA4用紙にプリントアウトして図3で半径を測ると金星の軌道が1.4cm,地球の軌道が1.95cmで,この比はおよそ0.718:1になりますから,図3は実際の様子にかなり近い,きちんとした図だと言えます。ところが(2)のアでは,同じ比がおよそ0.64:1です。(2)は火星(★)の位置を選ぶものなので,軌道半径は“だいたい合っている”で良いのかも知れませんし,正解できますが,金星と地球の軌道半径が図3と合っていないのは少し丁寧に見るだけで気がつきます。
それで,何がいけないかと言えば,問2の(3)でこの図を使うことが当然想定されるからです。金星・火星・地球の公転した角度を計算すると,金星50度,火星16度,地球30度となります。入試の現場ではこれを分度器なしで図解するのですから仕事は当然アバウトになりますが,頼りにする図がアバウトでは困る。ためしに分度器を使ってできるだけ正確に作図してみると,金星の動きに関する①は,(2)のアで作図すると判別できません。図3を使うならうまくいきますが,火星のことがあるので,金星のことは図3で,火星のことは(2)のアで,などと入試の現場で判断できるはずがありません。

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