【2013年10月24日の記事を再掲】
天体望遠鏡は2枚の凸レンズを対物レンズ・接眼レンズとしています。まず対物レンズで観察対象の実像をつくり(スクリーンがなくとも像は結ばれます),さらに接眼レンズで「実像の虚像」を見る,という原理です。実像を結んだところで観察対象とは上下左右が逆になっていて,「実像の虚像」は同じ向きに拡大するだけですから,接眼レンズから見えるものは観察対象と上下左右が逆です。対物レンズ・接眼レンズといえば顕微鏡も原理は同じ。実際に使われているものはもっと複雑なのでしょうが,原理に変わりはないのだと思います。
高校入試では顕微鏡や天体望遠鏡は生物分野・地学分野の素材なので,物理分野の範疇である実像や虚像の性質については深入りしないのが普通です。見える像は実物と上下左右が逆である,という点を押さえておけば良い。ただし,この話は「凸レンズ(光)」での素材とされたり「光」と「天体」との融合問題に用いられることもないわけではなく,前者はたとえば長野2003,後者は宮崎2010で出題されています。
上の図は天体望遠鏡で月を見ているところを模式的に描いてみたものです。実像・虚像ができるしくみを見やすくするために真横(あるいは真上)から見たところも併せて描きました。「これは」という図が見あたらないときは自分で描くしかないんですよね…。作図ソフトなどを使っていると仕事が終わりませんので,完全にアナログ絵です。線や着色が雑な点はお許しください。望遠鏡が寸足らずで無様なのは作図の都合によるものです。
月は遠くにあるので月面の一点からの光はレンズに平行に入射すると思っていいのですが,月全体には大きさがあるので,(「焦点に光が集まる」わけではなく)ちゃんと大きさのある実像ができます。だから月面の様子が見えるわけですが。実像は肉眼で見える月とは上下左右(後述するように「北南東西」と言ってもよい)が逆になっていて,それを虚像にしても逆のままです。
月とか惑星,星座を見るのであれば以上のことを了解しておけば十分だと思います。さて…
では太陽の観察をするときは?
太陽は絶対に接眼レンズで見てはいけない。次の図のように,投影板に映して観察します。
(啓林館『未来へひろがるサイエンス3』旧版p.61から拝借しました)
図中にあるように記録用紙には東西南北を記入しますが,この場合,太陽をどのように見ているのか,ピンと来るでしょうか。言い換えれば,太陽の像の下側に南,左側に西と記入するのはなぜでしょうか。
天体望遠鏡の対物レンズを太陽に向ければ記録用紙の下側は南だし,当然のように左側は西ですが,それは地上の話です。そうではなく,地上から見た太陽表面の東西南北がそうなっているからそう書くのです。
難しいですか?この話は,全く気にしないことにすればそれで通過できてしまいます。でも,「わけを知りたいのだけど教科書にも参考書にも説明がなくて困っている」という人もいるでしょう。この記事はそんな人のために解説を試みようとして書いています。
まず,地上から見た太陽表面の東西南北について。太陽は,それから月も南の空の一部ですので,地上から見て右側が西,左側が東になります。太陽から天頂に向けて線を延ばせば北へ向かうことになるので上側は北。その反対側は南です。
「太陽は東から西へ自転する」と表現するのもこのためです。地球の自転の向きは「西から東へ」で,太陽の自転の向きは地球と同じですが,「なぜ逆になるんだ」と悩む必要はありません(※)。
※実を言えば私(神谷)はその昔,この件ですいぶん悩みました。太陽表面に立ったつもりになれば,どうしたって「西から東」ではないかと。仮定が間違っていたわけです。
さて,今のことがわかれば理屈は見えてくると思います。次のアナログ絵を見てください。
天体望遠鏡の対物レンズが結ぶ実像Ⅰは,太陽の実物とは上下左右(北南東西)が逆になっています。それを接眼レンズでもう一度,投影板の上に実像を結ばせたのが実像Ⅱ,つまり実像Ⅰの実像です。図では投影板の裏から見た(見えたとして)ところを描いています。これを望遠鏡の側から見れば,先ほどの図のように太陽の像の左側が西,右側が東となるわけです。
「実像の実像」などと言えばややこしい感じがしないでもないですが,「ちょうど太陽を鏡に映した像がそこにある」と思えば,投影板に映っているものを見て太陽の実物がよく実感できるのではないでしょうか。