中学地理教科書の踏み込んだ記述 | 札幌西区個別指導学習塾・家庭教師 | 神谷塾|札幌西区の個別指導学習塾・家庭教師なら神谷塾

中学地理教科書の踏み込んだ記述

地歴講座の準備で中学生の教科書を必ずチェックする。今年度は新しい指導要領が正式に実施され、教科書もすべて新しくなった。そして厚みが増し、記述の深みも増した。中学の社会科では特に地理で目覚ましいものがある。
まず、前の前の指導要領ではもともとそうだったのだが、世界地理ではほぼ世界各地を、日本地理では日本の全地方を、それぞれ取り上げるようになった。これだけでも随分改善されたと思うのである。
こう書くと、最近の中学生の学習内容にあまりお馴染みでない向きには「そんなの、当たり前じゃないの」と思われるであろう。いや、それがですね、ついこの間までは「当たり前」じゃなかったのですよ。1節を設けて「各論」としての記述があったのは、世界地理ではアメリカ合衆国と中国とフランスだけ。日本地理では岩手県と福岡県と東京都だけ。たったこれだけ。あとは「全体を眺めてみましょう」で済まされていたのである。
他の科目はさておき地理という教科は、各論をやらずに総論ばかりやってもモノにならない。細部をおろそかにして全体を俯瞰することはできない。地図と首っ引きにして、ここにこんな川が流れている、こんな都市がある、と新鮮な気持ちで眺める機会を持たなくてはいけない。それでこそ、たとえば「世界の小麦の大産地の共通点」などという話が意味を持ってくるのである。
だから神谷塾ではSee-beを導入した2007年から地歴講座の地理では各論をしっかりやってきていて…と自慢話のような苦労話のようなことを書くはずではなかった。教科書の厚み・深みのことであった。
地歴講座の地理では最近「北アメリカ」を取り上げた。まあ、40分×2回くらいの時間では、ほとんどはアメリカ合衆国の話に終始せざるを得ない。前の教科書にも「アメリカ合衆国」はあり、話題は十分に揃えてあったつもりであった。
ところが、新教科書をちゃんと読んでみるとけっこう凄いことが書いてある。私の手許には札幌市で採択されている教育出版の教科書しかないのだが,人種差別と経済格差の問題や,超巨大企業による世界市場の支配など,以前は見かけなかったような詳細な記述が目に付く。率直に(以前は考えられなかったことだが)読んでいて面白い。教科書にここまで書いてあるからには、神谷塾の講義のネタもしっかり仕込み直さなくては、と思ったのである。
こんなコラムもある--
 アメリカ合衆国には,陸軍,海軍,空軍,海兵隊の4部隊で構成される軍隊があります。軍隊の規模は,正規軍は154万人,予備兵力も98万人にのぼります。軍事予算は5359間億ドル(2008年)で,世界の軍事予算全体の約半分を占めており,アメリカ合衆国は世界最大の軍事大国となっています。また,米軍の兵力の約10%は外国に駐留しています。2007年には,ドイツに約6万人,日本に約3万人が配置されていました。アメリカ合衆国は,経済力は先端技術においても世界最大の国です。そうしたアメリカ合衆国を中心とした世界の秩序を保つため,世界的な規模で軍事力は強められています。
 第二次世界大戦後,アメリカ合衆国が軍事力を強める背景となたソ連との冷戦は,1989年に終結しました。しかし,2001年9月11日には同時多発テロが発生し,初めてアメリカ本土が攻撃されました。これに対し,アメリカ合衆国は,テロ行為を行った勢力が潜んでいるとの理由からアフガニスタンを攻撃しました。こうした新しい脅威に対するため,アメリカ本土の防衛を重視するとともに,世界的に展開する米軍の配置を再編成する計画が進められています。計画では,世界のどこにも迅速に展開する能力を高めるため,友好国との連携が強められています。その最も重要な拠点がイギリスと日本です。
 世界最大の軍事力を支える軍事産業は,アメリカ経済に大きな影響をもっています。このため,戦力の配備や軍事作戦において,軍事産業の利益が優先されるおそれがあります。また,多大な兵力を派遣しているアフガニスタンやイラク戦争での犠牲者が増えており,志願制による兵力の確保が難しくなっています。さらに外国基地については,安全保障の面から駐留を歓迎する受入国がある一方で,アメリカ軍兵士による犯罪や基地の騒音,環境汚染などの問題が絶えないため,その撤退や移転を求める声があります。そのほかにも核兵器の廃絶や軍事費の削減など,米軍が直面する問題は少なくありません。
(教育出版『中学社会・地理 地域に学ぶ』p.87,赤字は神谷 )

アメリカ軍は、アメリカの軍事産業の都合にのっとり、またアメリカ資本の企業のグローバルな展開を支えるために世界に駐留し、一方で狼藉をはたらいているのですよ…と言っている。
なんだか高校生向け「政治・経済」の副読本のようである。中学生に読ませるために表現は全体に穏やかではあるが,中学の教室で米軍の本質に迫ることの可能な記述ではないだろうか。よくここまで書いた,いや書けたものだと感心する。そして,この文章が載っている教科書がよく文科省の検定を通ったなとちょっと不思議な気もしている。
もしかして,政権が民主党にあったからなのだろうか。民主党も結局アメリカの言いなりであったが,教科書検定官の仕事は自民党政権のころよりは緩かったのだろうか。だとしたらちょっと惜しかったな、と思う今日この頃である。

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