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学校裁量問題

北海道の公立高校入試が終わりました。受験生のみなさんはお疲れ様でした。学校裁量問題のことが新聞の紙面を賑わせていますので、私も関係者の端くれとして一言、二言、三言…。
説明不足というか…
今回の裁量問題導入について、北海道教育委員会(道教委)は、当初何と説明していたでしょうか。手許にある2008年6月24日付北海道新聞の記事を見てみますと、前日の道教委の記者会見ではこんなことが言われています。田畑明雄高校教育課長の説明です。
「学習指導要領の範囲内で出題するので、中学校での指導内容の変更や、特別な受験対策は必要ない」
「従来も応用問題は出題しており、そちらに軸足を移すだけ。難問、奇問、珍問ではない」

これを真に受けていた人は、驚愕したでしょう。「裏切られた」と言っても過言ではありません。確かに指導要領内の出題でしたし、奇問・珍問ではありませんでしたが、英語や国語はまぎれもなく難問だったのですからね。
「難問となる可能性があるので、導入校を受験する生徒はそれなりの対策をしてください」
と言うべきだったのではないでしょうか。
問題例を見せるべきだった
もちろん、応用問題というのはふつう難しいので、道教委に言われなくても対策はします。しかし、これまで国語・英語では呆れるほど幼稚な問題がしばしば出題され、全国でも1番目か2番目に易しいと言われてきた経緯を鑑みるに、
せいぜい全国の平均か、それを若干下回るくらいのレベルに落ち着くのではないか
と予想する人が多かったと思います。それが一気に全国平均を上回るレベルに躍り出てしまった。衝撃的です。
すでに識者から指摘がありますが、モデル問題を示してさえいれば、各高校は導入か否かの判断をしやすかったはずですし、受験生も(塾も…)対応しやすかった。
先の道新の同記事ではこんなことも書かれています。
道教委は、裁量問題について「従来の応用問題と大差ない。特別の対策は必要ない」として、事前にモデル問題を公表する予定はないとする。
そういうわけで、秋田・宮城など先行する他県で出題された選択式応用問題を見てイメージを湧かせる、という対策が推奨されました。北海道学力コンクール(道コン)でも裁量問題を想定して出題するわけですが、なにぶんにも手探り状態なので、8月英語や1月国語のようにやたら難しかったり、11月以降の英語のように今ひとつ物足りなかったりもしました。
さて、道教委としては今回のことをどう説明してくれるのでしょうか。6月の時点ではそんなに難しくしないつもりだったのに、実際問題を作ってみたら難しくなってしまった、ということなのでしょうか。それならば、前言撤回して、モデル問題を示すべきでした。
「こんな感じの問題になる見込みです。見ての通り、ちょっと難しいかも知れません」
前言撤回とか計画見直しいうのは、お役人が一番嫌いなことのひとつです。しかし、決して大げさではなく、受験生の一生に関わることなのですよ。難しいとわかっていれば、覚悟を決めることも、作戦を変更することもできたのです。受験生の身にもなってみてください。
差がつかない…
おそらく、いわゆる「トップ校」以外の多くの導入校では、かなりの受験生がお手上げ状態だったのではないでしょうか。受験生の大半が裁量問題を前にして手も足も出なかったとすれば、国語で21点分、数学で15点分、英語で17点分がまるまる空白となり、本来60点満点の試験は国語で39点、数学で45点、英語で43点が実質的に満点という試験です。
「差をつける」ために導入したはずが、逆にこれまで以上に差がつきにくくなってしまった、という高校もあるはずです。それならば、標準問題で試験したほうが適切だったに違いありません。従来の問題で十分合理的な選抜ができていた高校は、横並び意識やメンツなどにこだわらずに導入を見送っても良かったのです。
裁量問題を導入するか否かは毎年検討されます。昨年は9月でしたが、今年はいつでしょか。裁量問題の難度が維持されるのか易化するのかにもよるのでしょうが、いずれにしても、今年の反動で、来年2010年度入試では導入校がぐっと減るように思います。
英語
すでに指摘されているように、多くの受験生には時間が足りなかったと思います。文章を全部読んで理解してから解こうと思うと、読んでいるうちに時間切れになったかも知れません。幸いにして、途中まで読んでは小問を解くということができる出題なので、白紙は免れたかも知れません。ただし、一文一文が長いので、正確に読むためにはかなりの読解力が要ります。それを裏付けるのは文法。コミュニケーション重視の英語教育では、この問題には歯が立ちません。
それにしても、あの原稿どおりにスピーチをしたとすると、そうとうにわかりにくいものになる可能性があります。実際の会話で関係代名詞なんか使うものでしょうか。
数学
私は、関数とか空間図形で仕掛けてくるだろうと思っていたのです。私の趣味では関数。高校入試の目的ということでは、アタマを試すという側面も重要ですが、高校数学のメイン部分のひとつに接続するような出題がいいのではと。
それで、裁量問題の部分が難化して、もともと難しめだった数学がすご~く難しくなるのでは?と心配していたのですが、ものの見事にはずされました。大問1の小問集合が「易しめ」から「標準」になっただけ。国数英の中では一転して最も与しやすいものになりました。ただ、小問集合では物足りなさを否めません。
大問にして、小問を5つくらい。大学入試ではそれが普通であるように、ある小問が次の小問のヒントになっている形式。これがいいと私は思います。
国語
外山滋比古氏の文章は、入試や模試でも中学生には比較的お馴染みですし、昨年は『思考の整理学』が評判になっていたりしました。それで、外山さんに注意!と私は生徒によく言っていました。この点では“的中”といいますか、かすったかも知れません。ただし、「読めよ」と言っても読まないのが中学生。たぶん意味はありませんでした。
また、仮に『思考の整理学』あたりを読んでいたとしても、今回の出題には歯が立たなかったかも知れません。一読して、「これは無理かも」と思いました。文章を読み込むことができれば、構造がしっかりしていて論旨は明解。設問もわりあい対応しやすいものだったと思います。読めていればの話ですが。
こういう文章を読めるようになるには、普段から読むしかありません。試験のときだけ頑張ればなんとかなると多くの生徒は思っていますが、甘いです。これを機に、新書などを読む習慣がつくように中学校が奮起してくれるといいのですが。
塾での“対策”
さて、道教委の発表には「特別な対策」という表現がたびたび出てきますが、これには暗に「塾での勉強」という意味も含まれていたかも知れません。ただし、裁量問題が出るからといって、塾が「裁量問題対策」をぶちあげて授業をしても、それでついてくる生徒ばかりではなかったでしょう。
難しい問題に自力で切り込む力は、天下りで注入できるものではないのです。一部の意欲的な生徒には有効かも知れませんが、一斉指導では多くの生徒が受け身になってしまって、全体的に効果を上げることはおそらく難しいでしょう。
神谷塾では数理講座の中3数学がもともとそちらを向いていたので、「裁量問題対策」の側面を強調、私も多分に意識しながら授業をしてきました。しかし、個人の資質を高める、という点では個別にやるしかありませんでした。ひとりひとり実力が違うわけなので、一斉指導ではできにくいのです。丁寧な添削を含めた個別指導が有効です。
…と言っているうちにも、また受験の1年が始まります。新指導要領の移行措置(前倒し実施)でも今年はゴタゴタしそうです。

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