遅くなりましたが,2022年度の北海道公立高校入試についての感想を書き留めておこうと思います。まず理科・社会を。
■理科
軽い。大問数が例年と同じ5というのは大方の予想通りだが,小問数が減っている。’21年度は39,’20年度は33,’19年度は39,’18年度は35だったのが,今回は32。せっかく時間が長くなり,100点満点で小刻みに配点できるようになったのだから,各大問で見開き2ページ(最終問は3ページかもと私は予想していた)にびっしりと設問を並べてやればよかった。大問[2]~[5]のそれぞれに小問が5題ずつしかないのでは深みも出しにくいというものである。小問数を絞って思考力重視の問を散りばめるという方向性もあり得るし,大いにやるべきだが,特にこれといった難問もなく,単に易~標準の問が数を減らしてセットにされたに過ぎない。社会が難化したので理科でバランスを取ったのか,それとも理科の苦手な生徒に忖度したのかとさえ思いたくなる(入試なのだからその教科に適性があるとか努力した生徒が有利になるようにすべきである。当たり前だけれど)。出題ミスがあったり素材の信憑性が疑わしかったり説明に不足・不備があったりするよりはマシかも知れないが,入試がこんな風だと理科を頑張ろうという意欲が失せ,高校理科で苦労する生徒が増えるであろう。今回に限って作問者の力量不足または設計ミスであったと思いたい。来年からは改善されますように。
[1] 小問集合。小問数が12というのは例年並みだが,短文の穴埋め(問1)が8題もあり,残り4題は物理・化学・生物・地学のごく基礎的な問題。4分野のバランスは取れているのだが,レイアウトの仕方によっては1ページに収まってしまいそうな分量の少なさに,かえって意欲をそがれる。
[2] 生物。維管束の観察と蒸散の実験。北海道の生物はよく意表をつく出題をしてくるが,今回はわりあい普通。「観察」はごく基礎的で,大問1(小問集合)に入れてもいいくらい。「実験」は ①花でも蒸散が行われる ②暗い環境でも蒸散が行われる の2点が珍しいが,そういうものだと呑み込んでしまえば解くのに苦労はない。
[3] 化学。’21年度からの新課程で,これまで高校内容だった「ダニエル電池」が中3配当になった。ここを準備しようとすると過去問がないので教科書や塾のワーク(もしかしたら高校化学の参考書)などでやるしかなく,それでも一生懸命準備した生徒は多かっただろう。だから出題してやればいいのに…と私などは考えるのだが,今年は昔ながらの電気分解であった。イオン関連は2年連続となる。塩酸と塩化銅水溶液というのもよく見かける組合せ。どちらも塩素が発生するので塩素の漂白作用によってインクやBTB溶液の色が消えるという点にやや力点が置かれているのが変化球的で,北海道らしいと言えば言える。
[4] 物理。昨年度は中3配当の「運動とエネルギー」が出題範囲から削除され,3年続けて出題がなかった。だから今年は出るだろう…と一生懸命準備した生徒は多かっただろう(以下略)。今年は直列回路・並列回路であった。問2で4つの回路での豆電球の明るさの序列を問うものがやや骨があると言えば言えるが,全体としては広がりに欠ける出題。
[5] 地学。北海道の冬の天気にまつわる内容。問2の(3)で氷点下での飽和水蒸気量を扱う点は珍しいが,数値が小さいだけで設問は基本的。同じく(2)では,冬の季節風のため日本海側は雪,太平洋側は晴れになる理由を書くのだが,どこまで詳しく書けばよいのか不明で,よく勉強した生徒ほど長文を書いてしまうはずである。それでももちろん正解になるであろうが,正答例として示されているのが簡単過ぎていただけない。長文を書いた子が「こんなのでいいのかよ」と憤るだろう。特に正答例2として示されている文は正答の要件を満たしていないだろう。
■社会
難化した。これまでは5教科の中で社会が特に易しめだったので,丁度良くなったと言えそう。本格的な記述問題が 2つあるので時間いっぱい粘った生徒が多かったと思われる。出題形式としては,近年最終の大問だった地理がラス前に移ったほかはほぼ例年通り。
[1] 小問集合。大雑把に分けて地理・歴史・公民各5題。
[2] 歴史。鎌倉時代の土地制度,室町時代の農村の自治,江戸時代の貨幣,日露戦争時の国際情勢,満州事変後の日本の孤立化と経済状況。問6は小作争議が急増した時期2回のそれぞれの理由を資料から読み解くもので,記述問題としては本格的。資料5からは小作農が高い小作料に苦しんでいたことを,資料6からは社会運動が活性化していたことを,資料7からは昭和恐慌の影響が深刻であったことを,それぞれ指摘する。完全に書くのは難しかったかも知れない。
[3] A世界地理,B日本地理という近年の形式を踏襲。A問2はタイの工業地域を指摘するもので,難しくはないが,たぶんこれまで考えたことのなかった事柄。B問2は千里ニュータウンでの1960~70年代,2000年代,2020年代の人口構成の変化を,少子高齢化や再開発と絡めて考えるもの。
[4] 公民。経済・環境・福祉・地方自治の3題。問3は温室効果ガスの排出削減を巡る先進国と発展途上国の主張の対立に関して,いずれかの立場を選んで相手がどうすべきと主張していたかを説明するもの。公民の学習も終盤にさしかかった辺りの内容で,受験生の学習が追いついていなかった可能性が高い。「パリ協定」と「京都議定書」の内容を踏まえなくてはならず,しかもこれらは資料として示されていないので,率直に言って容赦ない。歴史の授業が中3になってもなかなか終わらず,公民の授業はやっと夏休み前後に始まったかと思うと物凄いスピードでやっつけていく…という中学校が珍しくないと想像する。こんな風潮に一石を投じたものと思えなくもない。