書棚の中から目に留まった本をご紹介します。
立花隆・佐藤優『ぼくらの頭脳の鍛え方 必読の教養書400冊』(文春新書,2009)
著者らは言わずと知れた知の巨人たち。自分の書棚から100冊ずつ,書店の文庫・新書の棚から100冊ずつ,必読の教養書がリストアップされています。
私の場合,400冊の中に読んだことがある本はほんの数冊しかなく,この400冊を「必読」と言われると我が人生のボンクラぶりが身にしみます。難解そうな哲学書は敬遠せざるを得ませんが,自然科学書は仕事がら「必読」だとは思えるので,諦めずに挑戦していきたいものです。
さて,本書でいちばん「ためになる」と感じるのは立花氏による3ページ。「立花隆による『実戦』に役立つ十四カ条」(pp.244-246)です。長くなりますが引用します。(赤字は神谷)
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スペースがあまりないので、メモ風に記すことにする。以下、最初に断っておくが、あくまで仕事と一般教養のための読書についてであって、趣味のための読書についてではない。
(1) 金を惜しまず本を買え。本が高くなったと言われるが、基本的に本は安い。一冊の本に含まれている情報を他の手段で入手しようと思ったら、その何十倍、何百倍のコストがかかる。
(2) 一つのテーマについて、一冊の本で満足せず、必ず類書を何冊か求めよ。類書を読んでみてはじめて、その本の長所が明らかになる。そのテーマに関して健全なパースペクティブを得ることができる。
(神谷注:perspective (名)展望,大局観)
(3) 選択の失敗を恐れるな、失敗なしには、選択能力が身につかない。選択の失敗も、選択能力を養うための授業料と思えば安いもの。
(4) 自分の水準に合わないものは、無理して読むな。水準が低すぎるのも、水準が高すぎるのも、読むだけ時間のムダである。時は金なりと考えて、高価な本であっても、読みさしでやめるべし。
(5) 読みさしでやめることを決意した本についても、一応終わりまで一ページ、一ページ繰ってみよ。意外な発見をすることがある。
(6) 速読術を身につけよ。できるだけ短時間のうちに、できるだけ大量の資料を渉猟するためには、速読以外にない。
(7) 本を読みながらノートを取るな。どうしてもノートを取りたいときには、本を読み終わってから、ノートを取るためにもう一度読み直したほうが、はるかに時間の経済になる。ノートを取りながら一冊の本を読む間に、五冊の類書を読むことができる。たいていは、後者のほうが時間の有効利用になる。
(8) 人の意見や、ブックガイドのたぐいに惑わされるな。最近、ブックガイドが流行になっているが、お粗末なものが多い。
(9) 注釈を読みとばすな。注釈には、しばしば本文以上の情報が含まれている。
(10) 本を読むときには、懐疑心を忘れるな。活字になっていると、何でももっともらしく見えるが、世評が高い本にもウソ、デタラメはいくらもある。
(11) オヤと思う個所(いい意味でも、悪い意味でも)に出会ったら、必ず、この著者はこの情報をいかにして得たか、あるいは、この著者のこの判断の根拠はどこにあるのかと考えてみよ。それがいいかげんである場合には、デタラメの場合が多い。
(12) 何かに疑いを持ったら、いつでもオリジナル・データ、生のファクトにぶちあたるまで疑いをおしすすめよ。
(13) 翻訳は誤訳、悪訳がきわめて多い。翻訳書でよくわからない部分に出会ったら、自分の頭を疑うより、誤訳ではないかとまず疑ってみよ。
(14) 大学で得た知識など、いかほどのものでもない。社会人になってから獲得し、蓄積していく知識の量と質、特に、二十代、三十代のそれが、その人のその後の人生にとって決定的に重要である。若いときは、何をさしおいても本を読む時間をつくれ。
(「朝日ジャーナル」1982.5.7初出/『ぼくはこんな本を読んできた』〔文春文庫〕収録)
【ここまで】
(6)と(7)については、自然科学書には当てはまらないものがあるでしょう。数学や物理の本、特にその分野に初めて切り込む場合は、納得が行くまでその部分に留まるべきだし、数式を自分の手で追わないと理解できないことが多い。
(14)については、私の場合はもはや手遅れ(笑)ですが、この記事を見てくれている若い人には、天国の立花氏に成り代わり強くお勧めしたいことです。